「一喜一憂」を感じさせるマンション

2013年01月09日中国文化

 今回は世界的な注目を集める中国の住宅事情についてお話ししたいと思います。
 人間は誰でも仮住まいよりマイホームが好まれます。「狭いだが我が家」という言葉もあります。ところが30年ほど前の中国ではとても「マイホーム」を持つことが出来なかったのです。
  その時の中国では、会社の社員が一般的に勤める会社の所属の社宅に無料で居住することになっていました。いざ会社を辞めるならその社宅をほかの社員に明け渡さないといけませんでした。90年代前半、国の住宅改革に伴いそれまでその社宅に居住した会社員が割に安い価格でみずから出資し、個人の資産(物件)にその住宅を買うのを強制的に決められ、買わざるを得なくなりました。その時の中国人は収入もすくないし、手元に貯蓄もあまりなかったのでした。その時代を顧みると、いわゆる社会主義の優越性の表れだといっても過言ではなかったのです。いわば長年の「マイホーム」の念願が叶えられたのでした。

 しかしこの住宅改革による社宅の喪失が政府、または民間の不動産屋さんの大量の出現を促しました。それにしても当時の国民の所得が少なく最初のうち、それに応じる販売価格があまり高くはなかったのでした。ところが中国の経済の著しい発展にともない、不動産の価格が日増しに値上がりし、20年という「うなぎ登り式」の成長のおかげで、とうとう大都会の北京や上海などが東京並みの価格に上昇しそうになりました。結局日本みたいな不動産のバブルの気配がくすぶりいつか弾けるのではないかと危まれています。
 近年、中国では株などの投資が余り芳しくないので、国民の投資選択肢として不動産への投資が貯蓄よりも利益が大きいと思われます。そのために大量の資金(外国からのホットマネーも流入したと言われています)が不動産に流れてしまい、より一層その価格の高騰に拍車をかけました。一括払いで買えない人(特に若者が多い)が住宅ローンで買うことしかできなく、余儀なく「房奴」になってしまいました。「房奴」というのは銀行へのローン返済で生活負担が重く、苦しい生活に強いられた人のことです。これにより今の社会は不動産開発で大儲けをした大富豪もいれば、ローンの返済にあくせくする人ももっと多いと予想されます。こうして言えば不動産産業は貧富の格差の拡大をきたした元凶とも言ってもいいぐらいです。
 社会の安定を脅かす住宅価格の高騰に鑑みて政府は2010年から積極的に一連の価格抑圧措置を実施してきました。それでこの2年間、昔ほどの高騰ぶりを見せなくて価格の値上がりに少し歯止めを掛けましたが、物価の上昇率に見合う程度で上がるのも否定できない事実です。さらに、近年住宅を巡る土地や立ち退きなどによるトラブルも多発し社会的な問題になっています。このことから「マイホーム」のマンションが中国社会にいかに大きな変化や衝撃を与えたのかがわかります。

 一方では「もう不動産開発は飽和状態になり、いつかバブルが崩壊するじゃないですか。」と心配する人は少なくないです。一方では「不動産産業は国の支柱産業だから政府からのサポートがあるから、崩壊はしませんよ」と反論する人もいます。また「そのうち政府は全国的に不動産税を取り立てるだろう」という取沙汰も広まっています。政府が毎年主催して開発した大量の「廉租房」(安価租借アパートのことで、日本の市営住宅に当たります)や「経済適用房」(低所得者だけが申請できる住宅)はどれだけ高止まりのマンションの価格を押さえるのかも疑問視されています。これから中国の大規模な「城鎮化」(田舎の戸籍持ちの人口を町の開発により、町の人口に変える方針)が進むにつれ、不動産市場や価格に対する予測にきわめて不確定の感をさらに色濃くしているようです。今頃、「マンションを買っていいか」、それとも「仮住まいをしていいか」、「今買わないと、そのうちまた値上がりすると困る」、そして「今こそマンションを売る時期だよ。そのうちバブルが崩壊すると困るよ」と、このように世間で様々な言い方が飛び交っていてまさに悩みの種になり、ジレンマなのです。
 中国では、市売の住宅を購入し個人の物件になったとしても日本などと違い法律的に70年の所有権が定められています。この70年の期限が切れたならどうなるのかと今の所、誰も見通せません。土地はもともと政府の所有で、個人としては売買したりすることができないことになっています。しかし、いったん政府が社会(個人または民間の不動産屋)に公開競売で売り出した土地は改めて住宅用地として利用し開発することもできるのです。法律による期限はやはり70年の所有権となっています。別に商業用地と商業用物件に関して、40年の所有に短くなります。
 もう一つは中国住宅を購入した時点では、ほとんど内装が付いていません。セメントやコンクリートの壁がそのままで剝き出しになり、入居するには内装屋さん(日本の工務店に相当)に頼んですべてを内装してもらうことが必要です。内装のリフォームや費用などについて双方が相談し決めることができます。大体自分の希望に沿う装飾をしてくれますが、入居するまで気を使います。
 それに中国人の生活水準が上がるにつれ、子供の結婚に新しいマンションを贈呈したり強要したりすることは風潮になりそうであり、特に東北地方ではその傾向が強まっています。マンションを買ってやらないと結婚してくれないところも出ました。
 「みんなマンションのために喜び、またマンションのために悩んでいる」と揶揄している人もいます。今ほどマンションにプレッシャーを感じる時代はないと言えるようです。

立派なマンションを買えたいのは中国人のかねてからの夢です

もともとはある会社の社宅でしたが、住宅改革により、今はすべてその会社の社員の個人資産になりました。今は市場価格に照準して自由に売れるようになりました。





地価やマンションの価格が暴騰して不動産屋が出した最初の賠償金に納得できなくなり、立ち退きを拒否する住民が一部まだ住んでいる古い住宅(やはりもとの社宅から私宅になった団地)

90年代に建てた旧式の住宅街には管理がついていないですが、やはり90年代よりもかなり値上がりしました。



一見すればとても洒落ているマンションだと分かります。きっと価格も管理費も高いでしょうね。

町の美観に釣り合わないほどボロボロな旧式の住宅団地をちっとも介にしないアパートの住民(釘子戸)

必死でも立ち退きを拒否するお婆さんも頑張っています。中国では「釘子戸」と呼ばれます。






量がわずかですが、町の中にある一戸建ての高級住宅街です。富裕層者だけしか買えません。



中国では新築のマンションは内装が付かず皆改めて内装工事をしないと住めません。コンクリートの壁がむき出したままです。
内装会社(日本の工務店に相当)に内装してもらったら、急にきれいに変わったマンションの内部





都市部の拡張につれ、町の周辺部の農家は野菜田圃が狭くなり、農業だけではもう食い上げの恐れが出ましたが、農地の買い付け、農民を立ち退きさせる費用は地価などの高騰でさすがの不動産屋さんでも手が出ません。中国はこのような町の開発を遅らせる「城中村」がたくさん残っています。







田圃が住宅団地の開発に全部買い付けられた都市周辺の農家は生計をたてるには違法建築としながらもみんなレンタル向きの増築を競うように建てています。それでも政府が普通これに大目の態度で見ています。

「飽和状態」と言われながらも急ピッチで進めている建物の工事現場です。売れ行きが市場により検証されて初めて分かるかな。

その一方、出来たてのマンションを懸命に売り込もうとする不動産屋さんの広告や垂れ幕などが町では溢れています。おそらくこれらの現象は、激変した中国を反映する時代の烙印そのものでしょう。











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作者:( 「ふれあい中国」)

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